これまで、日本のスタンダードだった、雇用制度の仕組みの1つ「定年退職」。現在は、国民の健康寿命が伸び、「人生100年時代」と言わるようになり、時代と共に、「定年退職」のあり方が変わりつつあります。2013年に政府が改定した「高年齢者雇用安定法」によって、定年が60歳から65歳へ引き上げられました。
現在は、経過措置期間となっていますが、2025年4月から、「定年退職」を採用している全ての企業において「65歳定年退職」が義務となります。2021年4月には同法が「70歳までの就労機会確保を企業の努力義務とする」と法改正され、「新たな働き方」をどのように導入していくか、企業に期待が寄せられています。
『令和3年版 高齢社会白書』によると、直近の年齢階級別就業率を見ると、60歳〜65歳の就業者は71%を占め、高齢者の高い労働意欲が伺えます。また、雇用する企業としても、高齢者の「豊富な経験、卓越した技術、優れた知見」は、企業成長に欠かせないリソースだと考えています。こうした状況の中で、働き続けたい高齢者と、高齢者に働いて欲しい企業を結ぶ法律として、「高年齢者雇用安定法」は機能し運用されているのです。
製造業において、特に不足しているのが「技能人材」です。こうした人材をカバーしていくのが高年齢熟練技術者(以降、熟練技術者と略称)です。熟練技術者の豊富な経験、卓越した技術、優れた知見は、企業にとって、他社との差別化や競争力の源泉にもなります。長年社会で培ってきた経験や勘、技術・ノウハウは、企業の成長に、欠かすことができません。
少子高齢化時代の「技能人材不足」を切り拓くためには、熟練技術者の有形・無形の知的財産を、企業活動に活かすことがとても重要になってきます。特に、有益な活躍の場として挙げられるのが、VMSを使った「遠隔監視」業務です。以下に、どのように熟練技術者の技術を、「新たな活躍の場」に活かしていくことができるのか、具体例をご紹介します。
熟練技術者の「新たな活躍の場」として期待できるのが、ネットワークカメラやVMS・AI解析ソフトなどの技術導入の発展が目覚ましい「スマート保安」です。既に、多くの企業ではDX化が推進され、「スマート保安」はDX化の中の1つと定義できます。知的財産の蓄積、生産性向上のための自動化、データ価値の拡大など、企業はDX化推進の中で、常に新しい方法を見いだしています。よりスマートなビジネス、よりスマートなインダストリーの実現として「スマート保安」は位置付けられます。
現在でも、遠隔地にある製造工場やプラントなど、安全に稼働するための保安活動を「人」が行っているケースが多々あります。DX化が進んでいない企業は、「技能人材」が不足し、遠隔地への人員の手配ができないという問題が表面化しています。そのような状況から、企業はDX化を早急に推し進め、ネットワークカメラやVMS、AI解析ソフトなどの新たな技術を導入し、保安体制を変革することが求められます。「スマート保安」に移行することで、構造的課題を解決に導くことが可能となります。
現場の負荷が高い「人」が行う保安活動を、ネットワークカメラとVMSで代替し、「遠隔監視」に切り替えることで、現場の負荷を低減できます。また継続的な「技術人材不足」に、熟練技術者を配属させることで、長年培ってきた「知的財産」が活かされ、生産性の向上が期待できます。熟練技術者のノウハウと、ネットワークカメラ・VMS・AI解析ソフトを組み合わせることで、安全基準を数値化し、熟練技術者の属人的なノウハウを定量数値化できます。技術を平準化し、技術を次の世代へ「知的財産」として蓄積することも可能です。
例えば、経験値の少ない作業員がいる工場設備があれば、複数のネットワークカメラとVMSやAI解析ソフトを導入し、遠い場所から熟練技術者の操作で「遠隔監視」ができます。究極に言うと、「海外の複数の遠隔プラントを1人で遠隔監視する」ことも可能です。現場で監視している状態と、同レベルでの遠隔監視が可能であり、遠隔地の不便さや、施設との距離、時間も問いません。遠隔監視業務は、「リモートサービスセンター」で行われ、遠隔監視以外にも、現場の運転監視・操業支援を遠隔で行うことも可能です。国が掲げるSocitey5.0のように、IoT(Internet of Things)で人とモノを繋ぎ、様々な知識や情報が共有され、新たな価値を創造することで、製造業の課題や困難を克服することが期待できます。