SCADAの基本と歴史~これからの監視制御システムとは
生産現場では、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)というシステムをPC上で動かし、様々な生産設備の稼働状況のモニタリング、運転指示、生産データの集計を行っています。
海外では、このSCADAをMES(Manufacturing Execution System)と生産設備コントローラーである、PLC(Programmable Logic Controller)やDCS(Distributed Control System)の中間におき、生産システムの階層化を行うのが一般的ですが、国内では、あまり使用されていません。
国内では、PLCを機能強化し、MESと直接接続するような生産システムが主流となりました。
何故このような違いが生まれたのか、SCADAの歴史を交えてご紹介するのと同時に最新のSCADA機能と今後の活用トレンドついて、ご説明したいと思います。
SCADAとは-読み方は?何の略?など基礎知識を解説
SCADAの読み方は「スキャダ」。Supervisory Control and Data Acquisitionの略です。「監視制御」と「データ取得」を担うシステムです。
大規模施設やインフラを構成する装置・設備から情報を収集し、一カ所に集めて監視制御する機構のことを指します。
監視制御システムとは
IA(Industry Automation)が進む現代では、生産・供給の工程において多くが自動化されています。その設備が正しく動作しているかどうかを、それぞれの設備に対する計測データを収集、監視・制御を行う役割を果たすのが「監視制御システム」です。SCADAはこの監視制御システムの一つです。
SCADAの役割/主な使われ方
SCADAの主な機能は、以下です。
- PLCやDCSからデータを定期的に収集又は、データ変化時のみデータを受領する機能
- 収集したデータを計算、集計する機能
- 収集したデータをプログラム言語等で編集・保存できる機能
- データ収集を定義する編集機能
- ユーザーインターフェース画面をお絵描きソフトで簡単に構築できる機能
- 収集したデータや計算したデータをデジタル表示やチャートにして画面に表示する機能
- 収集したり計算したりしたデータを履歴として長期保存する機能
- 保存された履歴データをチャート(トレンドグラフ)等で表示
- 保存された履歴データを帳票に印字する機能
- 保存したデータを外部メディアにバックアップする機能
- 監視画面や予め決められた定義に従いPLCやDCSにデータを書き込む機能
- 市販データベースやOPC等を用い、外部のシステムと連携できる機能
- 収集したデータから、アラームを発報し、オペレーターに注意喚起する機能
- 複数の同時発生アラームを予めきめられたルールで優先順位を決めて発報できること
- 発生したアラームを保存し、あるルールに従い整理・解析できること
- アラームの統計解析等が可能なこと
- ログインユーザーにより、データや画面・帳票の使用制限がかけられること
以上のような特徴から主にアナログデータ(温度、圧力、流量、電流、電圧、振動数等)をPLC/DCSから収集し、データの収集・監視・解析・帳票作成を行うような工程で使用されます。
業種としては、以下のような業種で使われることが多いです。
- 石油・石化
- 化学
- 薬品
- 食品
- 鉄鋼
- 電力
- ガス
- 水道・下水
- その他産業のユーテリティー監視
SCADAのメリット
PLCやリモートI/O(入出力)などとの通信を行うための監視制御システムの開発において、通信機能や状態監視、ロギング集計、グラフィックなどの機能が必要になります。これらの開発にはそれなりの期間と費用を有しますが、SCADAを利用するとカンタンに実現できるのです。そのため開発にかかる工数や費用を抑えられる利点があります。
SCADAのデメリット
開発費を抑えられるとはいえ、小規模な監視の現場では機能的にオーバースペックとなる場合があります。小規模用の監視機器や、IoTデバイスなどが相応しい状況もあるため、省コストになるかどうかは規模を選びます。
また、多種多様なPLCやリモートI/Oとの通信機能を持つSCADAですが、ニッチな機器との通信ができないケースが起こりえます。この場合別プログラムで連携用のゲートウェイアプリケーションを開発する必要がありますので注意が必要です。
SCADAとDCS、PLCの違いと比較
SCADA、DCS、PLC、これらは比較して語られることが多く、いずれも機械を制御するための装置ですが、制御の方法に違いがあります。それぞれの特徴をみていきましょう。
DCSとは?
DCSは分散制御システム(distributed control system)の略称です。分散という名のとおり、システムを構成する機器ごとに制御装置を設ける仕組みです。各制御装置はネットワークで接続され、通信を行って相互監視を行います。主に、化学産業等、連続系プロセスで使用されます。
PLCとは?
PLC(Programmable Logic Controller)は、機械を自動的に制御する装置です。あらかじめ、機械が行う動作を順番に沿って記憶させ、無駄なく動作させるために使用されます。主に自動車・機械加工等組み立て系産業で使用されます。
SCADAとDOS、PLCの比較
SCADAと比較すると、DCSやPLCのみの使用は利便性において劣るように見えますが、国内ではまだまだSCADAを使わないケースが多くあります。特に一元管理の必要性が高くない現場においては十分に対応が可能で、人の目で数字を把握すれば事足りる場合も多いためです。そのような現場でSCADAを導入しても、設計がより複雑になったり業務やり方を再構築したり、時間と手間がかかることから、広く導入が進んでいない側面があります。
SCADAの歴史
私が学校を卒業し、社会に出た約40年前(2022年10月時点)には、日本のオートメーション市場にSCADAは未だなかったように思います。ひょっとしたら海外にはあったのかもしれません。当時は未だPLCも駆け出しで、リレー盤が徐々に置き換わっていた時期でした。当時、PLCは、リレー盤の置き換えということで、操作、表示機能としては、盤上のランプやスイッチ類が主流でした。
しかしながら海外では、既に、PLC間ネットワークが開発され、ミニコンに直結されて、今で言うMESみたいな事をやっていました。米国GM社では、既にPLCから生産計画システムが垂直統合され、全自動化ラインを実現していたと記憶しています。(数年のずれはあるかもしれません)
そうこうしているうちにPCが急速に発達し、PCとPLCがRS232CやRS422/485のシリアル線で通信できるようになり、PLC内のデータを収集・記録・表示したり、設定値を書き込んだりするようになってきました。しかしながら、当時は、BASIC言語やC言語を駆使し、全てを一から作ることで、生産ラインのモニタリングシステムを実現していました。この頃になると、デジタル表示器が出現し、押し釦やランプ表示の一部が置き換わっていきました。
1990年代中頃にバブルがはじけたころ、日本でもSCADAという言葉を聞くようになりました。当時所属していた職場では、国産独自OSを持った工業用コンピュータを製造・販売していましたが、急速なPC価格の下落と本格SCADAの出現で、急遽SCADA開発に舵を切りました。
しかしながら、これがあまり上手くいきませんでした。
海外では急速に広がりを見せたSCADAですが、日本では、どうも前述のデジタル表示器の高級版位にしか認識されなかったようです。
というのも、当時の日本では、SCADAが動作するWindows系PCの信頼性を著しく低く評価しており、制御系の情報処理に関しては、UNIX系のシステムが重宝されていました。
また、元々、PC上で一からPLC等のモニタリングソフトを開発するなど、高度な能力を持つ日本のシステムインテグレータ達にとって、SCADAのデータ収集機能やデータ表示機能は、特に目新しいものではありませんでした。
それらの結果、海外(特に欧米)と日本のSCADAの評価は、違ったものになったようです。
進化するSCADAの今後
当初、PC単体上で、PLC/DCSと通信しながらデータをモニタリング、制御データの設定を行う用途で使用されていたSCADAですが、PCの性能向上に伴い、その性能も格段に高くなりました。
昨今では、以下のような機能を持つ高機能SCADAが市場で販売されています。
- サーバー/クライアント方式
- 複数サーバーの連携
- 通信の冗長化
- Webクライアント
- スマホやタブレット等のモバイル端末対応
- サーバー仮想化対応
- 多重冗長化
- サーバーのクラウド化
- 高度なセキュリティー対応(通信暗号化、階層サーバー方式)
- 複数OS対応(Windows, Linux, UNIX等)
このように、SCADAの高機能化に伴い、SCADAは、ある工程のモニタリングシステムにとどまらず、工場や会社全体の統合監視や国全体のインフラ網監視で使用されるようになりました。特に、海外では、そのサーバー間通信機能を生かし、離れた場所から遠隔で工場全体や企業の生産状況全体を監視するようなエンタープライズ監視システムとし使用されることも多くあります。
例えば、オランダでは、北海沿岸に広がる海上ガス生産基地を陸上で統合し、夜間は、陸上のオペレーターのみで全基地を運転するようなオペレーションを行っています。
そのソリューションの特徴は、以下です。
- 複数の運転室を一つの運転室に統合
- それぞれの海上基地は、個別の運転も可能
- 全海上基地のオペレーションを統一することにより、トレーニング工数を削減
- 陸上のオペレーターは、1つのシステムを覚えれば、全基地の運転が可能
- 海上のオペレーターを削減=ヘリコプターコストや食料他コスト他の削減
- 全海上基地の10年間分データ保存によるデータ解析
- データドリブンによる効率化運転
- 危険エリアの運転員削減によるリスク回避
- ローカル個別運転では難しかった、遠隔集中運転による24時間365日運転の実現
- 統合HMIによる操作ミス削減(様々なシステムを運用することの難しさを回避)
- 高齢化したオペレーターを活用することにより知識流出回避
- 熟練技術者を陸上に集め、安全で効率的な運転サポート
- 統合HMIにより運転法案の継承の容易化
しかし、この流れは、日本国内では起こっておらず、SCADAの使用方法は、従来の狭い範囲の監視システムに限定された使われ方にとどまっています。
今後は、どうでしょうか。
日本が高度に築き上げてきた、工場のコンピュータシステムは既に老朽化してきており、これらのコンピュータシステムを築き上げてきた技術者も多くは引退する年齢となりました。
その結果、最新のハードウエアを使ったシステムに従来の思想のシステムを更新することが非常に困難になってきています。
このため、日本でも、高度なプログラミング知識がなくても、比較的容易に工場全体の統合監視システムが構築できる高機能SCADAが、今後は浸透していくのではと考えています。
VMSとはーSCADAとの親和性は?
VMS(Video Management Software/System)は、映像統合管理システム・ソフトウェアーです。
VMSサーバーで各種カメラから撮影した動画を記憶装置に保存、ライブ動画や録画を管理し、クライアントワークステーションで映像を閲覧します。
VMSのメリット
その特徴として以下があります。
・生産現場の状況をもれなく、24hr記録します。この事により、生産現場の状況を細かく解析可能になります。
・メーカーの異なるカメラやアナログラメラ等全てのカメラ映像を統合することができます。見たい映像は、PCやスマホからワンクリックで表示できます。
・クラウドサーバーにVMSシステムを構築して、本社のネットワーク帯域を削減、初期費用を抑えた構築が出来ます。
・多数(無制限)のカメラ映像を一元管理、遠隔で複数名がクライアントやスマートフォンでライブ映像や録画を閲覧出来ます。
・1台のスマートフォンも1台のカメラとして利用出来ますから、移動しながら現場ライブ中継が可能です。
・はじめは、拠点毎にカメラLAN構築し、スモールスタート、多拠点統合させ中央統合監視体制の構築を簡単に実現できます。
・遠隔地から生産現場の詳細な監視が可能となり、数少ない熟練技術者を1箇所に集結、遠隔リモート操業を実現します。
・映像をデジタル化することにより、各種ツールとの連携が可能になります。当社では、AIとの連携、プラントデータとの統合システム(SCADA統合)システムをご提供できます。
VMSのデメリット
このように、多くの機能を持ったVMSですが、製造現場に於いてVMS単体のみの監視では、その活用方法に限界があります。例えば、以下の事があげられます。
- 問題発生時の画像を閲覧するのに、全ての録画から探すのに苦労する。
- フィールドデータの変化に合わせた動画の閲覧が難しい
- 動画をAIで解析させ、計算値変化と同時に画像視認したいが、AI値との連携が困難
- フィールデータの異常を検知した時、直ぐに同じ位置にあるカメラの視認が困難
- 熟練者の勘に頼っていた、設備故障予兆診断を遠隔からカメラ画像でやりたいが画像を視認するだけでは困難
SCADAとの連携でデメリットが解決
これらの事は、SCADAとVMSを連携させる事により解決が可能になります。
以下にその解決方法を述べます。
- アラーム発生時の録画をワンクリックで表示
- フィールドデータのチャートと同期した録画の表示
- AI計算値のチャートとその時の動画の同時閲覧が可能
- フィールドデータの異常発生時に、直近位置のカメラ動画をポップアップ表示
- 熟練者のノウハウをAIに学習させ、同時にカメラの視認によるダブル判断により設備故障予兆を遠隔地から正確に把握。(別途AIシステムとの連携が必要)
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